
考古学を学んだ先に、仕事はあるのか。進学を考えるとき、たぶん気になるところだと思います。
教員が生徒や学生の頃は「歴史なんか学んでも就職できないんだから」なんてよく言われました。
保護者や先生など、相談できる方に聞いても、そんな答えをいただくことも多いかと思います。
もちろん、専門的な知識を基にした仕事に就くということは、それなりの覚悟と努力が必要になります。
ただ、それはどんな仕事においても同様のことだと思います。
お子様など、身近な人が「考古学やってみたい」と言っても、やはり保護者の立場では不安に感じられることも多いかと思います。実際にそれで進学をあきらめた、あるいは反対されてきた、という学生も見てきました。なので、ここで、実際についてお話をさせていただければと思います。
文化財の仕事は、どれくらい募集があるのか
研究室では、全国の文化財関連職・学芸員の公務員採用について、各機関が出した募集要項そのものを読んで集計しています。求人の集約サイトの分類をそのまま使うのではなく、AIにも手伝ってもらい、一次情報を読む方法をとっています(基準日:2026年7月11日)。
その結果、令和8年度の募集について、次のことが分かりました。現状数えられた募集の総数は201枠です(正規の採用枠を、同じ募集の重複を除いて数えたものです)。
- そのうち、考古学を専攻した方の求人が最多で、116枠=約6割(57.7%)
- 考古学を学べば応募できる採用枠(考古学の募集+専攻を問わない枠)は、128枠=約6割(63.7%)
文化財の専門職として自治体に採用される道は、考古学が主要な入口になっている、ということです。これは昨年の集計ともあまり傾向は変わりません。
なお、この数字は年度の途中で集計したものです。募集は今後も増えますので、年度どうしで総数を単純に比べることはできませんし、数字は少し変わるでしょう。
あわせて、発掘を実施したり、支援をおこなう企業も存在します。また、臨時職などの募集を含めると、非常に多くの求人があるといえます。ただし、この状況が一過性のものなのか、今後も続くのかはわからない、という点は注意が必要です。
近年、専門職に就く人の減少も指摘されています(毎日新聞 2024年8月18日)。
こうしたなかで、大学と行政が協力して次の世代を育てようという動きがあります。三重大学は、近畿地区考古学大学連絡協議会(近考連)に参加しています。2016年に設立され、2府5県の25大学と、各県の文化財保護行政・埋蔵文化財調査組織が協力して、学生向けの文化財専門職説明会を毎年開いている組織です。ここでは、専門職を目指す仲間と会うこともできます。
さらに2026年度からは、東海地区でも同様の協議会が立ち上がり、三重大学も参加する予定です。
進路を考えるときに相談できる相手は、研究室の中だけではない、ということです。
採用試験の実技は「遺物の実測」です
採用試験では、実技を課す機関があります。埋蔵文化財センターや都道府県の学芸員・専門職・技師職に多く見られます。そして、私たちが内容を確認できたものは、すべて「石器・土器の実測」でした。 実測道具を持参し、決められた時間で図を描く、という形式です。
研究室で日々学生のみなさんが、実測をしています。断片から全体を見るでも書いたとおり、実測は形や観察で読み取った情報を記録する作業であり、考古学の基本の技術です。その基本が、その人の技量を評価する方法として採用試験の課題になっています。
大学で学ぶことと就職が、ここでは一直線につながっています。「なぜ長時間かけて資料の図を描くのか」は研究のためですが、加えてそういう面もあるのです。
発掘調査の経験は必要ですか
「発掘に参加した経験がないと応募できないのでは」と心配される方がいます。実際、専門職の採用では文化財の調査への参加や、研究会での発表といった活動の経験を問われる場合も多いです。
焦らなくて大丈夫です。まずは大学で基本を身につけてください。とはいえ、発掘から得られる学びや、考古学研究の楽しさは大切な経験になると思います。また、経験なしにでは就職後に何をすればよいのか、困ってしまうかもしれません。採用する側も、やはり経験を積んできた人を魅力的に感じます。就職氷河期の自らの経験から(教員もそうです)、後進の若者たちに調査経験を持っていただこうとお骨折りいただいてる自治体の皆様との協業もありがたいことにあります(本当にありがとうございます)。三重大学は今後も、このような機会を増やしていきたいと思っています。
専門職だけ?
ここまで読まれると、専門職を養成する所と勘違いされてしまうかもしれません。
もちろん、卒業生は多様な業種に就職して活躍されています。大学で学んだことを直接活かす場面は少ないかもしれません。しかし、大学はただの知識ではなく、考え方や方法を学ぶ場だと考えています。授業でも、多くの学生は社会の様々な場所で多様な役割を担う人になっていきます。専門職にならなくても、考古学の方法で人や社会を見る視点を持つことは、大学で学ぶ価値だと考えています。それぞれの場所で課題に直面した時に、それを解決するヒントになるような、そんな学びができるように授業や演習を工夫しています。知識は各自本を読んだり、話を聞いてもらって、主に授業では方法や見方について考えるのが多いかと思います。
